2019年8月2日 医師の宅直・オンコール当番に残業代等は必要か
宅直やオンコール当番は、基本的には事業場にはおらず、自宅等、使用者の直接の支配下でなく、プライベートな場所、または自由のある場所で待機します。
宅直・オンコール当番は、呼び出しに備えて待機を求められている以上まったくの自由時間ではありませんが、とはいえ、ある程度の自由が認められる状況で待機しているのですから、宿直に比べ拘束力は弱いといえます。
そこで、宅直やオンコール当番勤務に対して、残業代等が支払われるべきなのか、という点が問題となってきます。
医師の宅直・オンコール当番勤務が、労働時間に該当するのかについて争われた著名な裁判例として、奈良病院事件判決があります。 結果は、宅直当番勤務について労働時間性を否定し、残業代等の支払を認めませんでした。 理由は、以下のとおりです。
- 宅直制度は、宿日直担当医以外の全ての産婦人科の医師全員が、連日にわたって応援要請を受ける可能性がある、という過大な負担を避けるため、医師がそのプロフェッションの意識に基づいて、当該緊急の措置要請(応援要請)を拒否することなく受けることを前提として、その受ける医師を予め定めたものであり、同制度は医師らの自主的な取組みであること
- 宅直を担当しない日は、精神的な緊張や負担から一応解放されると考えられることに照らすと、これを半年、1年単位でみれば、宅直制度の下における医師らの負担が、宅直制度がなく宿日直担当医以外の全ての産婦人科の医師らが、連日にわたって上記緊急の措置の要請を受ける可能性がある場合の負担に比べれば、過大であるとはいえないこと
- したがって、病院長からの黙示の業務命令があったとはいえないこと
- 宅直制度が宿日直制度と一体の制度であるとまでいうことはできないこと
- 明示、又は黙示の業務命令に基づき宅直勤務を命じていたものとは認められないのであるから、宅直当番日に自宅や直ちに病院に駆けつけることが出来る場所等で待機していても、労働契約上の役務の提供が義務付けられていると評価することができないこと